れまでは一点非もなく育てられ、またこれから先も、望みのある身ではござらぬか。振り分け以来の朋友《ほうゆう》の清らかな恋を祝ってやるくらいな雅量がなくてなんとなる。また、女の心というものは、そなたのようなよこしまな考えをもつものに、けっしてなびきはいたしませぬぞ。本来ならば死人を恥ずかしめた罪に問うべきでござるが、それをすれば自然世に出してならぬ一腰のことも、あかるみに出さねばならなくなるゆえ、松平家というたいせつなご親藩の名のために、右門が一生このことは胸に秘めて、今度だけは見のがしいたすによって、自今けっして杉弥どのたちの美しい秘めごとに、横水をさしてはなりませぬぞ」
そして、目を転ずると、美しき恋のふたりたちにも、さとすごとくにいいました。
「越前さまも上さまのお血を引いたご名君でござるから、すべてのことは申しあげなくともおわかりくださるだろうによって、そなたたちもはようむつまじい実を結ばれたまえよ」
言い終わると、ただ感謝のために声もなき杉弥以下四人の者へ静かに黙礼をのこしながら、さっさと歩を運ばせていましたが、ふと思い出したように伝六へいいました。
「あばたの敬四郎めが、下
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