づきましたから、鋭く右門が杉弥に命じました。
「さ! このあいだに、あの両名の腰のものをお改めめされよ!」
はじめてわかったもののごとく、杉弥が駆けだして、伝六のさし出した龕燈《がんどう》の下に中身を改めていましたが、と、まもなく歓声が上がりました。
「ござりました、ござりました。兄の要介めが帯びていたこれなる一腰の刀身、たしかに見覚えの村正にござります」
きくと同時に、右門が水の上へ叫びました。
「百合江どの、百合江どの! 杉弥どののご難儀は救われましたぞ!」
さて、もうあとはぞうさがなかったのです。根が深い悪心のあったことではなかったものでしたから、要介は神妙にすぐ自白をいたしました。
それによると、動機はむろん百合江に対する恋ゆえで、幼なじみ以来の恋情と思慕をひそかに寄せていたところ、はしなくも彼女の心が杉弥に向かって傾いたことをその挙動で感づいたものでしたから、つい目がくらんで、おろかな悪計を思いたち、杉弥が殿から村正のひとふりを預かっていたことはちゃんと知っていたので、それを盗みとったら、おそらく杉弥は詰め腹か追放に会うだろうと思って、杉弥なきあとの百合江の恋を私する
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