こちらにもめいめいが、めいめい同気相求むる者たちとひざをつらねながら、すでに酒三行に及んでいるさいちゅうでした。
 で、右門も宴にのぞんだ以上は勢いいずれかの仲間と同席しなければならないはずでしたが、しかし、こういうときいつもかれは金看板どおりのむっつり右門で、べつにだれといって憎い者がないと同時に、まただれといって特別に親しい者もなかったものでしたから、いちばんはずれの、人々からは全然独立した席へついてちょこなんと席を占めると、いっこうおもしろくもおかしくもないといったような、ごくぶあいそうな顔をしながら、黙々とした料理の品にはしをつけだしました。
 すると、また妙なもので、一番てがらの南蛮幽霊以来、右門の名声は旭日《きょくじつ》昇天の勢いで高められ、今では八丁堀といえば、ああ右門のだんなか、といわれるほどにも評判となっていたものでしたから、いくぶん嫉妬《しっと》の心持ちも交じっていたものか、同僚の同心たちはもちろんのこと、上席の与力たちも、下席の目あかし岡《おか》っ引《ぴ》きのやからにいたる者たちまでも、いつのまにかふたりを敬遠するともなく敬遠してしまって、自然に右門と伝六は一座の
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