ててしまい、お昼すぎから例年うちつれだって築地河岸《つきじがし》の木魚庵《もくぎょあん》という料亭におもむき、親睦会《しんぼくかい》をかねた慰労の宴を催すならわしでしたから、右門もちょうど非番でございましたので、少しおそがけに伝六を伴って、その会場に出向いてまいりました。
 ところが、この木魚庵というのが、お盆の十六日に宴会なぞするにはもってこいの、いたって風変わりな料亭なんで、当時の江戸名物帳を見ましても、そのもようがちゃんと記載されてありますが、河岸《かし》にのぞんだ横町にはいっていくと、まずお寺の山門になぞらえた大玄関の入り口が人の目をそばだてるのです、むろんのこと、そこには小さいながらも鐘楼があって、給仕は全部女気ぬきの十二、三くらいな小坊主ばかり。料理、器物、いっさいがっさいがまたお寺にちなんだ抹香《まっこう》臭いものばかりなんでしたが、しかし酒は般若湯《はんにゃとう》と称して飲むことを許され、しかもその日の会費はしみったれな割り勘なぞではなく、全部お番所のお手もと金から出ることになっていたものでしたから、右門たちが行ったときは非番の者の残らずが全部もう席について、あちらにも
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