のです。しかも、うしろ袈裟《けさ》に刀傷を二|太刀《たち》も見舞われて、――そして、その刀傷でもわかるように、くくされている不貞な妻女についてどろを吐かせてみると、下手人はいうまでもなく、すでに自身番預けの身となった身分ありげのあれなる老人の侍でありました。その老人の侍こそは、また身分ありげの侍とにらんだとおり、中国|出石藩《いずしはん》の老職で、だからお静の父なる浪人者の藩名もそれでわかったわけですが、同時にその藩を追われた真実の原因も、実はそれなる老職がまえからくだんの妻女に年がいもなく懸想していたためで、まずその目的を果たすためには浪人させる必要があるというところから、君侯に讒《ざん》を構えてまんまと江戸に追いたて、しこうしてのちに権力と金力をもってあさはかな淫奔《いんぽん》の妻女をたらしこみ、ようやくにして不義の目的を達するにいたりましたから、ここに当然起こったのは夫なる浪人者の始末で、さいわいかれが生まれおちるからの迷信家だったのを利用して、あの八卦見が三両で利欲にはまり、けしからぬ死相うんぬんの当たらぬ八卦をたてたのです。だから、浪人者がうろたえて一室に閉じこもったのを見す
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