た早いこと早いこと、たちまちいなせな鳶の若い衆を七、八人ばかり引き連れて、どやどやと駆けもどってきたものでしたから、右門は確信をもって命令を発しました。
「ご苦労だが、このかまどの下の古井戸の中に、人間の死体が浮いているはずだから、堀りあげてくれ!」
「そりゃ聞き捨てがなんねえや。そら、野郎ども、手を借しなッ」
 言いざまに頭《かしら》がまずまっさきにもろはだぬぎになりましたから、勇みと侠気《きょうき》と伝法はおよそ江戸鳶の誇りです。くりからもんもんの勇ましいところが、四半ときばかり力を合わせたとみるまに、案の定、かまどの下にはぽっかりとぶきみをたたえた古井戸の大きな口があいたものでしたから、それからあとはつねに不死身の頭の役で――、ひんやりと夏なお冷たき怪みたっぷりの古井戸へ、するするとなわを伝わりながら降りていったと思われましたが、同時に水の音があったと思うと、地の底で陰にこもる叫び声が聞こえました。
「だんなだんな、おめがねどおりだ。氷のように冷えきった裸んぼうの仏ですぜ」
 時をまたずに引き揚げてみると、それこそは実に小娘お静の父親なるあの浪人者のいたましき死骸《しがい》だった
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