ばたしたら少々ぐらいの痛いめはかまわねえから、もがかねえようにくくしあげろ!」
 命ずると、あんどんをさしあげて、あそこここと家の内の間取りぐあいをしきりに見まわしていましたが、そのときふと右門の鋭く目を光らした個所は、ほかならぬお台所のいぶせき浪宅には広すぎる土間のまんなかに設けられた新しいかまどです。それが新しすぎて不審なところへ、ひとりやふたりのお炊事をするささやかなるべき浪人者のあと家内たちのかまどにしては、少し造りが豪気に大きすぎたものでしたから、鋭く目を光らしながら近づいて、巨細《こさい》にあたりを調べあげると、はからずも右門の胸により以上の不審を打たれたものは、それなるかまどの上の天井ぎわに見える車井戸の井戸車でありました。
「ふふん、このかまどの下は井戸だな」
 慧眼《けいがん》はやぶさのごとき眼力で早くも推定がついたものでしたから、こころみにそこをたたいてみると、果然聞こえるものは、ぼうんぼうんという、まだ埋められてない古井戸の音響です。と同時でありました。
「伝六! 町内の鳶頭《とびがしら》をたたきおこして、わけえ者を五、六人借りてこい」
 もうこうなると、伝六がま
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