っと抜き手をきりながら向こう岸に泳ぎつこうとしたものでしたから、ひと足先に走りついて土手に上がるのを待ちながら、その手をぐいともう草香流で逆にねじあげると、右門がおちつきはらっていいました。
「ご老体に似合わず、たいした河童ぶりでござりましたな。それを見たいばっかりに変なまねもしたんだが、みんなこりゃ右門流の吟味方法だからあしからず――では、あすまた伝馬町の上がり屋敷のほうへお届けいたしまして、おっつけ鈴ガ森か小塚《こづか》ッ原《ぱら》にでも参るようになりましょうから、それまでご窮屈でござんしょうが、あそこの自身番でごゆっくり蚊にでも食われなせえよ」
 いいながら、道のついでに見つかった自身番へこかし込んでおくと、疾風のごとくただちに駆けもどったところは、若新造がもろはだぬぎで人待ち顔にお化粧をやっていた路地奥のあの一軒でありました。行ったかと思うと、もうずいと中へはいったので、それからずばりと鋭い声で、胸をえぐるがごとくいったものです。
「浪人者にしても、ともかく侍の妻じゃねえか。ふざけた年寄りを相手に不義いたずらをやりくさって、八丁堀に右門のいることを知らねえか――さ、伝六! じた
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