り不審のかどあってじきじきにお調べしたいことがござるから、お同道くだされい」
しかるに、右門の同道を求めたところは、もよりの自身番でもなく、吟味にはいたって縁の遠い永代橋の橋の上でしたから、まことに意外の中の意外というべきでありました。しかも、さらに意外なことは、橋のまんなかまで相手をしょっぴいていくと、いきなりその弱腰をけりながら、まっさかさまに大川めがけ、欄干から水中に突きおとしたもので――、だから、悲鳴に近い声をあげて伝六が叫んだのはあたりまえです。
「だんな、だんな、冗談じゃござんせんぜ! 見りゃ身分のありそうなかたのようだが、万が一のことがありゃ、だんなもあっしも切腹ものですぜ」
すると、右門が莞爾《かんじ》としながらいいました。
「そう安っぽい腹がいくつもあってたまるかい。むっつり右門といわれるおれがにらんでからのことじゃねえか。いまにみろよ、あいつがすばらしい河童《かっぱ》ぶりをみせて、たちまちどっちかの岸に泳ぎつくから――」
と、案の定そのことばのとおりで、水源《みなもと》には夕だちつづきでもあることか、いつもより水勢のました大川の流れをものともせずに、しゅっしゅ
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