の疾風迅雷的な行動がその場にも開始されるだろうと思われましたが、しかるに右門の伝六へ与えた命令は、またちょっとばかり奇妙だったのです。
「じゃ、あした久しぶりに、浅草へでもべっぴんの顔見に出かけるかな」
それも不意にべっぴんといったから、伝六が例のようにすぐとお引ぎずりを始めたのは当然なことで――。
「なんだか少しまた薄っ気味がわるくなりましたね。一つなぞが解けたかと思や、また妙ななぞをおかけになりますが、まさかあっしをからかっているんじゃござんすまいね」
しかし、右門は答えずにぷいと表へ出ていくと、行きつけの権十郎床で、何を考え出したものか、しきりと念入りに月代《さかやき》を当たらせました。のみならず、そのあくる朝が来ると、珍しく鏡に向かって、と見つ、こう見つしながら、鬢《びん》のほつれを入念に直したもので、まもなく髪から顔の手入れがひと渡り済んでしまうと、少し荒めと思われるはでな結城縮《ゆうきちぢみ》を素膚へ涼しげにひっかけながら、茶無地の渋い博多《はかた》を伊達《だて》に結んで、蝋色《ろいろ》の鞘《さや》の細いやつをややおとしめにたばさみながら、りゅうとしたいでたちで、さっと
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