ばかりに立ち上がりました。同じ美男は美男でも、ぐにゃぐにゃとした当節の銀座っぺいとはできが違いますので、こうなるとまったくその男ぶりのすごいこと、すごいこと――だから、年百年じゅう見なれている伝六すらが、とうとうぽうっとなってしまったのです。
「ああ、つまらねえ、どうしておれゃ女に生まれてこなかったろうな。こんないい男を前にして、野郎に生まれたばっかりの因果には、どうにも手の出しようがねえじゃねえか――」
 まことにこれは伝六の嘆声がもっともですが、しかし右門はそれほどもあざやかな美男ぶりであるにもかかわらず、べつにみずからはそれを鼻にかけようともしないで、おこったごとくにむっつりとおし黙りながら、さっさと表へ出ていきました。むろん、出ればすぐと駕籠《かご》で、しかも目ざしたところはほんとうに浅草だったのです。
 けれども、浅草を目ざしたことは目ざしましたが、右門の駕籠からおりたったところは、山の見せ物小屋とは反対に、雷門のまんまえでありました。それも、お参りをしようとするのではなくて、この暑いのにごった返している仲みせ通りの人込みをしきりとぶらぶらしながら、二度も三度も同じところを行
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