から、西日がやっとかげっていくらか涼風の出かかったお組屋敷のぬれ縁ぎわに大あぐらをかきながら、しきりとうちわを使っていると、大いそぎで今お湯をすましたばっかりといったかっこうで、せかせかと裏庭口から姿を見せたものは、例のおしゃべり屋伝六でありました。それというのは、いつまでたっても変人の右門が、もう少しこのほうだけは人並みすぎるほうがいいと思われるに、いっこう、女げをよせつけようとしないものですから、右門のこととなるとむやみと世話をしたがる伝六が、このごろずっとお通いで、朝晩のお勝手を取りしきっているからのことですが、だからわが家のごとく無遠慮に上がってくると、いっぱしの板番になったような顔つきで、ざっくばらんに始めました。
「米びつがけさでからだから、清水屋《しみずや》の小僧が来たらおいいなせえよっていっといたはずですが、まさかお忘れじゃねえでしょうね」
 すると、右門という男は、どうもどこまで変わり者だか、すましていったものです。
「ねぼけんない。おらそんなこたあ知らねえよ」
「えッ。ねぼけんないっですって……? あきれちまうな。だんなのおなかにへえる品物ですぜ」
「でも、きさま、
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