ょうよう》しておりました。
と――。けがの功名なことには、伝六の予言がみごとに的中いたしました。総髪の毛束を風に吹かせて、人捜し顔に向こうからやって来た人影があったものでしたから、ひとみをこらしてよく人体を見定めると、まさに昼間深川の境内で最後におまじないをやっておいたそのひとりです。
「ね、だんな、どうですい。あっしの鉄砲玉だって、たまにゃ的に当たりやしょう」
とんだところで伝六はすっかり鼻を高くしてしまいましたが、しかしそのときはもう右門が近よって、しらばくれながらかま[#「かま」に傍点]をかけていたときで――。
「おう、来てくだすったか。ご苦労だな」
「あっ――、暗くてよくわかりませんが、さきほど書面をくださっただんなですね。うちにけえってみると、いつもらったものか、ふところにあいつがへえっていたもんだから、あっしもびっくりしちゃいましてね」
「そうかい。とんだおつなまねしてすまなかったが、知ってのとおり、ちと内密に頼んだ仕事だったものだから、人に見とがめられちゃあとぐされが恐ろしいと思ってな、ちょっとばかり隠し芸をしたまでさ」
「ええ、そうでがしょう。大きにそうでがしょう。あのときもそういうお話でしたからね。ところで、ご書面によるとうまくいったとありますが、あの浪人者はほんとうにあれで死にましたかい」
「死んだからこそ、こうやってお礼に来たんだ。ときに、あのときゃいくら礼金をやるって約束をしたっけな」
「三両――たしかに三両っておっしゃいましたよ。だから、あっしゃ欲にかまけて、いまに来るか、いまに来るかと思いながら、はやりもしないのにあの八幡の境内で、きょうが日までだんなのおたよりを待っていたんですぜ」
「そうか、きのどくでしたな。じゃ、とりあえずその三両を先にやっておこうから、手を出しなよ」
「ありがてえなあ。久しぶりで小判の顔が拝まれますかね――」
出したところをむんずと見舞ったものは、おなじみのむっつり右門が十八番中の一つなる草香流やわらの逆腕の一手です。
「いてえ! な、な、なにするんでえ!」
いったが、もうこれはどう考えてみても少しおそいので――。
「バカ野郎! 調子につられて、つべこべとどろ吐きやがって――おれをだれと思ってるんだ。八丁堀のむっつり右門といや名ぐれえは聞いているだろうから、じたばたせずについてこい!」
人だかりがしてはと
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