すかい。そのみみずばれは、おふくろがこしらえたものとでもおっしゃるんですかい」
「あたりめえよ。あの小娘のおれに訴えてえものは、おやじのこともことだが、ほんとうはあのみみずばれのことがおもにちげえねえんだ。けれども、さすがは武士の血を引いて年より利発者なんだから、おふくろの折檻《せっかん》やそんなことは、家名の恥になると思って、このおれにさえいわねえんだよ。だから、見ねえな、おれが察して、当分ままたきのおてつだいでもするかといったら、あのとおり、ぽろぽろとうれし泣きをやったじゃねえか。きっと、おふくろに何か家へ帰りたくねえようないわくがあるにちげえねえから、ひとっ走り行ってかぎ出してこい」
「なるほどね。いわれてみりゃ、大きにくせえや、じゃ、もうこっちのお糸坊のほうはご用ずみでしょうから、道のついでに帰してもようがすね」
「ああ、いいよ。途中であめん棒でも買ってやってな――ほら、二朱銀だ」
「ありがてえッ。残りは寝酒と駕籠《かご》代にでもしろってなぞですね。では、ひとっ走り行ってめえりますから、手ぐすね引いて待っていなせえよ」
 伝法に言いすてると、米屋のお糸を促して、景気よく飛び出したものでしたから、ここにいたってむっつり右門の別あつらえな明知と才腕は、配下伝六の骨身をおしまざる活躍とあいまって、いよいよその第六番てがらの端緒につくこととなり、今は伝六が深川からの報告を待つばかりとあいなりました。

     2

 しかし、待つ間とてもあだに時をすごすべき右門とは右門が違いましたから、その間にもと思って、かれ一流の鋭利なる観察眼を用意しながら、聞きえられるだけのことを少女について尋ねました。しかるに、少女はその名を静と呼ばれているということと、疑問のおふくろをのぞいてはひとりの身よりも肉身もないということのみは包まずに答えましたが、右門のききたい肝心の継母に関しては、一言もことばを触れなかったのです。どれほどかまをかけてみても、利発そのもののような愛くるしいまなざしを伏せるだけで、ほとんどその片鱗《へんりん》をさえ伝えようとしなかったものでしたから、いよいよ右門が疑いの雲を深めているとき、通しの早駕籠《はやかご》かなんかで勢いよく駆け帰ってきたものは、深川へ行った伝六でありました。
「さ、だんな、お出ましだ。ほし! ほし! 大ぼしですぜ」
 的中したことを喜ぶあ
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