がちょいちょい使ったやつだ。一生の思い出に、あっしもちょっくら使いますかね」
 夜ふけをいといもなく数寄屋橋《すきやばし》へころころしながら行ったようでしたが、案ずるよりもたやすく用が足りたとみえて、小半ときとたたないうちに帰ってまいりましたものでしたから、右門は待ちうけてその報告を聞きました。この数日間に訴えのあった事件というのはだいたい次の五つで、まず第一は湯島切り通し坂のおいはぎ事件です。難に会ったものは近所の町医で、被害品は金が三両、第二は質屋の屋尻《やじり》切り、第三は酒のうえで朋輩《ほうばい》どうしがけんか口論に及び、双方傷をうけたからしかるべく取り扱ってくれという訴えでした。第四はだんご鼻の竹公という遊び人が、他人の囲い者をこかして金子六十両をかっさらい、いずれかへ逐電したからめしとってほしいというだんなからの訴え、最後は所々ほうぼうからの訴えをひっくるめた一件で、浅草と神田と日本橋ににせ金をつかました者があったという、あまりぞっとしない事件でした。
 だから、当然右門は失望するだろうと思われましたが、しかるに事実はその反対で、伝六の報告を全部きいてしまうと、突然にたりと
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