としゃれているじゃござんせんか。これじゃ、いかなだんなでも尾っぽを巻くなあたりめえでしょうよ。てめえが好きでおっ死《ち》んだものを、人がばらしたとにらんでたんだからね。しかし、それにしても、だんな、この文句が気になるじゃござんせんか。いまにきさまらの塩首が獄門台にのぼるだろうよと書いてあるが、このきさまらというそのきさまらは、なにものだろうね」
「今そいつを考えているんだ。うるせえ、しゃべるな!」
 しかりつけながら、右門は例のように、あごのまばらひげをまさぐりまさぐり、なにごとかをしばらく考えていましたが、突然きっとなったとみるまに、鋭い命令が伝六に下りました。
「今からお奉行所へ行って、訴訟箱の中をかきまわしてみてこい!」
「えッ! だって、もう五つ半すぎですぜ」
「五つ半すぎならいやだというんか」
「いやじゃねえ、いやじゃねえ。そりゃ行けとおっしゃりゃ唐天竺《からてんじく》にだって行きますがね。こんなに夜ふけじゃ、ご門もあいちゃいませんぜ」
「天下の一大事|出来《しゅったい》といや、大手門だってあけてくれらあ」
「なるほどね、天下の一大事といや、大久保の彦左衛門《ひこざえもん》様
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