て、しかるべき見込み捜査を開始するだろうと思っていたのに、どうしたことか、三十七人の者は平牢に投げ込んだままで、いやに右門がおちつきだしたものでしたから、あてのはずれたのは例のごとくおしゃべり屋の伝六です。
「ちえッ、あきれちまうな。いかにもっそう飯だからって、三十七人ものおおぜいを食わしておいたんじゃ、入費がたまりませんぜ。あっしの考えじゃ、こんな事件《あな》ぼこ、だんなほどの腕をもってすりゃぞうさはねえと思うんだが、それともなんか奇妙きてれつなところがあるんですかね」
けれども、右門はいかほど伝六にあきれられようがいっこうにすましたものでした。さっぱりとお湯につかって汗を流してくると、風通しのいい縁側に碁盤をもち出しながら、古い定石の本を片手にパチリパチリとやりだしたもので――だから伝六がたちまち早がてんをいたしました。
「へへいね。こいつあ近ごろ珍しいや。だんながそうやって碁をお打ちなさるときゃ、見込みのたたんときと決まっていやすが、するてえと、なんでげすかね。ぞうさがなさそうに見えて、こいつがなかなかそうでねえんでげすかね」
しかし、右門は一言も答えずに、必死とパチリパチリ
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