てこい!」
 こういうふうな人にわからない命令がやぶからぼうに右門の口から出るようになると、もうしめたものであるということは、今までしばしばの経験で、ちゃんと心得ていたものでしたから、伝六の鼻のいっそう高くなったことはむろんのことで、屋台の上からしきりとあたりを見まわしていましたが、さいわいなことに、一つうしろの麹町十一丁目の山車《だし》の上に、金の烏帽子《えぼし》をかむってほんものの生きざるが二匹のっかっていたのを発見すると、有無をいわさず、その一匹をひっ捕えてまいりました。だから、いっせいに見物がかたずをのんで、どんな種明かしをするだろうというように、右門の身辺を注視したことはいうまでもないことでしたが、しかし本人の右門はいっこうにおちついたもので、伝六がこわきにしているさるのところへゆうゆうと近づいていくと、しずかにその口を割って、問題の横笛の息穴をペロリとなめさせました。
 と――果然、右門のにらんだとおりの結果が、そこに現出いたしました。牛若丸にかくのごとき非業な最期をとげしむるにいたった猛毒は、問題の横笛のその息穴に塗ってあったとみえて、ひとなめ小ざるがそこをなめるやいなや
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