なかにはぼうっとなった女の子も出るといった騒ぎで、それにしては産土《うぶすな》さまもとんだ氏子をおこしらえになったものですが、しかし本人のむっつり右門は、いうまでもなくもう看板どおりです。群集のざわめきなぞは耳にも入れないで、苦み走った面をきっと引き締めながら、黙々として屋台の上に上がっていったと見えましたが、懐紙を出して不浄よけに口へくわえると、そこに倒れたままでいる牛若丸の全身をまずひと渡りていねいに調べました。と同時に、涼しく美しかった両のまなこは、さっと異様に輝きました。死骸《しがい》のいたるところに紫の斑点《はんてん》がはっきりと、浮かび上がっていたからです。いうまでもなく、その斑点は毒死した者のいちじるしい特徴で、だから右門は異状に緊張しながら、黙ってあたりを見まわしていましたが、ふとそこに横笛が――その息穴をなめたために牛若が悶絶《もんぜつ》するにいたりましたその横笛がころがっているのを発見すると、突然伝六に向かって、いつもの右門がするごとく、意表をついた命令を発しました。
「犬でもいいし、ねこでもいいから、ともかく生き物を一匹、きさま大急ぎでどこかへいってしょっぴい
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