ろうが、それにしてもこんな子どもだましの安物をお家の宝にしていたり、それがもとで仲たがいするところなんぞをみると、ほかに何かもっといわくがありそうだな」
 いいながら、若いご後室さまのやや青ざめた面にぎろりと鋭い一瞥《いちべつ》を投げ与えていたようでしたが、その鋭い一瞥のあとで急にまたいともいぶかしい微笑を彼女に送ると、右門はこともなげに言いすてて立ち上がりました。
「さ、伝六。これで一つかたがついたから、お小屋へかえってゆっくり寝ようかね」
 だのに、立ち上がってのそのかえりしな、それほどもこともなげにふるまっている右門の右足が、いかにも不思議きわまる早わざを瞬間に演じました。ほかでもなく、若いご後室さまの、そこにちょっぴりとはみ出していた足の裏をぎゅっと踏んだからです。
「まあ!」
 たいていのご婦人ならばそういって、少なくも右門の失礼至極な無作法を叱責《しっせき》するはずなのに、ところが青まゆのそれなる彼女にいたっては、いかにも奇怪でありました。踏まれたことを喜びでもするかのように、じいっと右門のほうをふり向いて、じいっとその流し目にとてもただでは見られないような、いわゆる口より
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