も、わがむっつり右門は、それらのあっ! という驚きの中から、ただ一つなまめかしいお後室さまのあっ! といった声のみを耳に入れると同時のように、そのほうへふり返って、ほんのりと微笑を送りました。そして、今なお驚き怪しんでいる道具屋のおやじと質屋のおやじとをしりめにかけながら、立ち上がって箱だなの中からさっき見ておいたお茶わんを取りおろすと、一座の者に二つの茶わんの中をさし示しつつ、明快流るるごとき鑑識のさえを見せました。
「よくまあ、この両方の茶わんの中を見るがいいや。道具屋にも似合わしからぬお眼力のうといことでござんしたな」
「へへい、なるほどね、両方とも茶わんの中はどろ水ですが、そうすると、こりゃお大黒さまはやっぱり二つで、両方ともどろ細工でしたんですかい」
「ま、ざっとそんなところかな。おまえんところのやつは、ねずみかなんかにけおとされて、ご運がわるくもお茶わんの中におぼれちまったんで、金無垢の豆大黒さまもたわいなく正体をあらわしちまったんさね。これがほんとうに箔《はく》のはげるというやつさ。でも、どろ水の中にちかちか光った金粉がいまだに残っているところを見ると、金は金の金粉だった
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