うの質屋へ行って、そこの家にある豆大黒といっしょに、亭主をここへしょっぴいてこい」
心得て、すぐに伝六が命令どおり、うしろへ質屋の亭主を引き連れながら、疑問の豆大黒をてのひらの上にのせてたち帰ってまいりましたものでしたから、形勢われに有利と見てとったかのごとくに、古道具屋のあるじがたちまちおどり上がってしまいました。
「三河屋さん、そうれごろうじろ、やっぱり大黒さまはてまえのうちのものですぜ。ねえ、八丁堀のだんな、そうなんでがしょう」
ところが、右門は意外でありました。なんとも答えずに伝六のてのひらの上からあずき粒ほどの大黒をつまみあげると、自分の目の前になみなみとつがれてあった饗応《きょうおう》の薄茶の中へ、容赦なくぼちょりとそれを落としこんだのです。と――なんたる不思議、いや、なんたる右門の明知のさえであったでしょう! 純真|無垢《むく》の金大黒と見えたくだんの小粒は、熱いお茶に出会って、みるみるうちにたわいもなく、とろんこと、どろになってしまったものでしたから、同時にいくつかの、あっ! という驚きの声が、右から左から、そしてうしろから、右門の手もとにそそがれました。
けれど
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