様子を見せていましたが、しかし、それはほんのしばし――
「あの神だなが、お大黒さまを祭ってあったところでござります」
 いった亭主のそばへ近づいていくと、伸び上がるようにしてぎろりとまずその特有の目を光らしました。みると、なるほど亭主のいうとおり、なげしの上に造りつけた箱だなの中には、お不動さまのお守りもあるが、それから天照皇太神宮のお札もあるが、豆大黒はその上に飾ってあったらしい小さな台座が残っていても、金無垢《きんむく》の福々しいそのお姿をばどこにも見せていないのです。
 と、そのときじっと目を光らしていた右門のまなこに、はからずも映った一個の古ぼけたお茶わんがありました。豆大黒さまが出奔してからというもの、気も転倒してしまったとみえて、それっきりもう朝ごとのお茶も進ぜないらしく、茶わんはほこりにまみれたままでありましたが、その位置がちょうど大黒さまがまつられてあったお台座の真下になっていたものでしたから、なにげなく取りおろして、ふと中をのぞいてみると、とたんに右門はにっこりと笑いながら、言下に命じました。
「伝六ッ、きさまにもてがらを半分おすそ分けができそうになってきたぞ。筋向こ
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