きいたほどでもねえなんてぬかしやがったんですよ」
「たしかにいったか!」
 すると、右門の顔がやや引き締まって、その涼しく美しかった黒いひとみが少しばかりらんらんと鋭い輝きを見せだしましたものでしたから、伝六が勢い込んでそれへ油をそそぎかけました。
「いいましたとも! いいましたとも! はっきりぬかしやがってね。それからまた、こうもいいやがったんですよ。お上の者がまごまごしてどじ踏んでいるから、たいせつな子どもをかっさらわれたばかりでなしに、もう一つおかしなことを近所の者から因縁づけられて、とんだ迷惑してるというんですよ」
「ど、ど、どんな話だ」
「なあにね、そんなことあっしに愚痴るほどがものはねえと思うんですがね、なんでもあの質屋の近所に親類づきあいの古道具屋がもう一軒ありましてね。そうそう、屋号は竹林堂とかいいましたっけ。ところが、その竹林堂に、もう十年このかた、家の守り神にしていた金の大黒とかがあったんだそうですが、不思議なことに、その金の大黒さまがひょっくり、どこかへ見えなくなってしまうと反対に、今度はそれと寸分違わねえ同じ金の大黒さまが、ぴょこりとあの質屋の神だなの上に祭られ
前へ 次へ
全48ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング