いんだからね。だが、それにしても、ほかにもうあの事件のねた[#「ねた」に傍点]になるようなものはめっからなかったかい」
「それがですよ。あっしもせっかくこれまで頭突っ込んでおいて、あのほしが見当はずれだからというんですごすご手を引いちまっちゃいかにも残念と思いやしたからね、下谷のあのほしはもう見切りをつけて、すぐにもういっぺん二十騎町の質屋へすっ飛んでいってみたんですが、ほかにゃもう毛筋一本あの事件にかかわりのあるらしいねた[#「ねた」に傍点]がねえんでがすよ」
「そうすると、依然質屋の子せがれは生きているのかも死んでいるのかも、まだわからんというんだな」
「へえい。けれども、そのかわり、あの質屋のおやじがあっしをつかまえて、おかしな言いがかりをつけやがってね。南町はどなたのご配下の岡っ引きだとききやがるから、へん、はばかりさま、いま売り出しのむっつり右門様っていうなおれの親分なんだって、つい啖呵《たんか》をきっちまいましたら、おやじめがこんなにぬかしやがるんですよ。むっつり右門といや、南蛮幽霊事件からこのかた、江戸でもやかましいだんなだが、それにしては、子分のおれがどじを踏むなんて、
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