適当なくらいですが、しかし右門は反対に、もうそのときは林のごとく静かでした。面の清らかなることはまた天上の星のごとくに清澄で、騒がずにおのがお小屋に帰っていくと、ごろり横になりながら、自信そのもののごとくに、すぐと毛抜きを取り出したものでした。

    2

 待つことおよそ小半とき――。日はうららにもうららかな孟春《もうしゅん》四月の真昼どきでした。そして、案の定、右門のにらんだずぼしは、まちがいもなく的中したのです。
「偉い! さすがに目が高い!」
 肩息で駆けかえりながら、汗もふかずに、まず伝六がずぼしの的中を証拠だてたので、右門もようやく手から毛抜きを放しました。しかし、ことばは氷のごとく冷ややかでした――。
「どうだ。さかなは大きかったろう」
「大きいにもなんにも、まるで怪談ですぜ」
「つじ切りか」
「どうしてどうして、これですよ。これですよ」
 話すまもぶきみにたえないといいたげな身ぷりをしながら、手まねでこれといったので、そのこれといった伝六の指先でさし示している方角を見守ると、右門の眼光は同時にぎろりと光って、ことばに鋭さが加わりました。
「首?」
「さようで、それも
前へ 次へ
全46ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング