ただの首じゃごわせんぜ。まだ血のべっとりと流れている生首ですぜ」
「どこかにそいつがころがってでもいたというんか」
「ところが、そいつがただのところにころがっちゃいないんだから、まるで怪談じゃごわせんか。ね、肝をすえてお聞きなせえよ。お屋敷は番町だそうで、名まえは小田切久之進《おだぎりきゅうのしん》っていうもう五十を過ぎたお旗本だそうながね、お禄高《ろくだか》は三百石だというんだから、旗本にしちゃご小身でしょうが、とにかくそのお旗本のだんなが、眠っている夜中に、どうしたことか急に胸が重くなって、なんか胸先のあたりを押えつけられるような気がしましたものだからね、はっと思って、ふと目をあけてみるてえと――」
「胸のうえに、生首が置いてあったというのか」
「さようで、お約束どおりのざんばら髪でね。青黒いその生首に、べっとりと、いま出たばかりと思われるようなまだ少しなまあったかい血がしみているというんですよ。しかも、そいつが女の首で、おまけに片目えぐりぬいてあるっていうんですよ」
「なるほど、少し変わってるな」
「変わってる段じゃない。いまにおぞ毛が立ちますから、もう少しお聞きなせえよ。ところ
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