のか、伝六がそばから伝六なみの鬱憤《うっぷん》を漏らしました。
「ちくしょうめ。相手にことを欠いて、また悪いやつが向こうに回ったものだね。ほかのだんななら、それほどくやしいとも、しゃくだとも思いませんが、あのあばたの大将にてがらされると思うと、あっしゃ江戸じゅうの女の子のためにくやしいね。どこの女の子にしたって、いい男にいいてがらさせるほうが、夢に見るにしたって、話に聞くにしたって、ずっといいこころもちがするんだからね」
 まったくそうかもしれないが、しかし、あばたの敬四郎がたとい日本第一の醜男《ぶおとこ》であったにしても、一歩先んじられたという事実はあくまでも事実なんだから、右門はそのきりっとした美しい面にほろ苦い苦笑をもらすと、やがて寂しくいいました。
「あした来な」
 そして、ごろりそのまま横になってしまいました。

    3

 しかし、翌日はあいにくのじめじめとしたさみだれでした。わるいことには、その雨の日にかぎってまたちょうど勤番で、もちろん事件がその手にあったならば、勤番、非番の区別はないわけでしたが、知らるるとおりこの生首事件はかれの手に委嘱されたものではなかったので
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