鷹匠《たかしょう》であったということ、だから他の三河以来の譜代とは違って、僅々《きんきん》この十年来の一代のお旗本にすぎないということ、したがって人がらはお鷹匠上がりの生地そのままにきわめて小心小胆であること、小胆なくらいだから性行はごくごくの温厚篤実で、その点さらになんらの非の打ちどころはないというのでした。加うるに、肝心の屋敷の様子ならびに家族の者に関する内情はいっこうに存じ寄りがないというのでしたから、これはどうあっても不結果です。ことに、その性行が温厚篤実という一条に至っては、いやしくも老中職の松平知恵|伊豆《いず》が、釜《かま》のような判を押して保証しただけに、大のおもわく違いで、温厚なものならむろん人に恨みを買うような非行もないはずでしたから、人に恨みをうけないとすれば、置かれるものに事を欠いて胸の上に気味のわるい生首なぞをのっけられるはずもないわけで、とすると全然のいたずらか?――それとも、あるいは伝六のいったごとく、ほんとうの怪談か?――右門の心はしだいに乱れ、推断もまたしだいに曇って、美しい顔の色がだんだんとくらまっていきました。その顔の色で万策の尽きたことを知ったも
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