ろう!」
 ですから、瞬時のうちに、迷うところなく進むべき道が決心つきましたので、右門は凛然《りんぜん》として立ち上がると、ただちにはせ向かったところは、ほかならぬ松平|伊豆守信綱《いずのかみのぶつな》のお下屋敷でありました。いうまでもなく、伊豆守は時の老中として右門なぞのみだりに近づきがたい権勢な位置にありましたが、前章で述べたとおり、あの奇怪な南蛮幽霊の大捕物によって、右門はその功を伊豆守から認められ、過分のおほめのことばをさえ賜わっていたので、小当たりにそれとなく当たってみたら、老中というその職責からいって、疑問の旗本小田切久之進の身がら人がら素姓に関し、何か得るところがあるだろうと思いついたからでした。
 案の定、伊豆守は老中という権職の格式を離れて、親しくそのご寝所に右門を導き入れながら、気軽に接見してくれました。けれども、たやすく引見はしてくれましたが、結果は案外にも不首尾だったのです。疑惑の中心人物小田切久之進については、次のごとき数点を語ってくれたばかりで、すなわちその素姓に関しては、ご当代に至って新規お取り立てになった旗本であるということ、それまでは卑禄《ひろく》のお
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