怪! 血を吸った長槍はそこに投げ出されてありましたが、いつ消えてなくなったものか、いるべきはずの清正と妓生の姿が見えないのです。
 事件は当然のごとく騒ぎを増していきました。むろん、もうこうなればお花見の無礼講どころではないので、遺恨あっての刃傷《にんじょう》か、あやまっての刃傷か、いずれにしても問題となるのは槍を使った清正にありましたから、そこに居合わした六、七人の同役たちが血相変えて、舞台裏に飛んではいりました。こととしだいによったら、与力次席の重職にある坂上与一郎といえどもその分にはすておかぬというような力みかたで――。
 しかし、事実はいっそう奇怪から奇怪へ続いていたのです。坂上与一郎もその娘の鈴江も、舞台裏にいるにはいましたが、まことに奇怪、いま清正と妓生に扮したはずの親子が、それぞれじゅばん一つのみじめな姿で、厳重なさるぐつわをはめられながら、高手小手にくくしあげられていたのでしたから、血相変えて駆け込んでいった一同は等しく目をみはりました。しかも、親子の口をそろえていった陳述はいよいよ奇怪で、なんでもかれらのいうところによると、扮装をこらして舞台へ出ようとしたとき、突然引
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