き入れられるように眠りにおそわれてそのまま気を失い、気がついたときはもうじゅばん一つにされたあとで、そのまま今までそこにくくしあげられていたというのでありました。事実としたら、何者か犯人はふたりでこれを計画的に行ない、まず坂上親子を眠らしておいて、しかるのち巧みに清正と妓生に化けて舞台に立っていたことになるのですから、場所がらが場所がらだけに、奇怪の雲は、いっそう濃厚になりました。いずれにしてもまず場内の出入り口を固めろというので、そこはお手のものの商売でしたから、厳重な出入り禁止がただちに施されることになりました。
と、ちょうどそのとたんです。
「お願いでござります! お願いの者でござります……」
必死の声をふり絞りながら、その騒ぎの中へ、鉄砲玉のように表から駆け込んできたひとりの町人がありました。
四十がらみの年配で渡り職人とでもいった風体――声はふるえ、目は血走っていましたから、察するに本人としては何か重大事件にでも出会っているらしく思われましたが、何をいうにも騒ぎのまっさいちゅうです。だれひとり耳をかそうとした者がありませんでしたので、町人は泣きだしそうにしてまたわめきた
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