によりますが、だから見るからにほれぼれとする鈴江の妓生が出てくると、見物席からは待っていましたとばかりに、わっと拍手が起こりました。
「よおう、ご両人!」
「しっぽりと頼みますぜ!」
 なぞとたいへんな騒ぎで、場内はもうわきかえるばかり――。
 その中を長いキセルでぽかりぽかりと悠長《ゆうちょう》な煙を吐きながら、変わり種の清正が美人の妓生とぬれ場をひとしきり演ずるというのですから、ずいぶんと人を食った清正というべきですが、それよりももっと見物をあっといわした珍趣向は、そのぬれごとのせりふが全部朝鮮語であるということでした。むろん、でたらめの朝鮮語ではありますが、ともかくも、日本語でないことばでいろごとをしようというのですから、かりにも江戸一円の警察権を預かっている八丁堀のおだんながたがくふうした趣向にしては、まことに変わった思いつきというべきでした。
 舞台はとんとんと進んで、ふたたび長助の虎が現われる、鈴江の妓生がきゃっと朝鮮語で悲鳴をあげる、それからあとは話に伝わる清正のとおりで、やおら三つまたの長槍《ながやり》を手にかいぐり出したとみるまに、岡っ引き長助の虎はたった一突きで清正
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