た公休日というのは天にも地にもその日一日しかないのですから、雨にかまわず催し物を進行させてゆきました。呼び物の虎退治をやりだしたのがお昼近い九つまえで、清正に扮《ふん》するはずの者は与力次席の重職にあった坂上与一郎という人物。縫いぐるみの虎になったのは岡っ引きの長助という相撲《すもう》上がりの太った男でした。
 お約束のようにヒュードロドロと下座がはいると、上手のささやぶがはげしくゆれて、のそりのそりと出てきたものは、岡っ引き長助の扮している朝鮮虎です。それが、いったん引つ込むと、代わって出てきたのが清正公で、しかしその清正公が少しばかり趣の変わった清正でありました。とんがり兜《かぶと》もあごひげも得物の槍《やり》の三つまたも扮装《ふんそう》は絵にある清正と同じでしたが、こっけいなことに、その清正は朝鮮タバコの長いキセルを口にくわえて、しかもうしろにはひとりの連れがありました。連れというのはなにをかくそう朝鮮の妓生《キーサン》で、実はその出し物が当日の呼び物になったというのも、その妓生が現われるのと、それから妓生に扮する者が、当時組屋敷小町と評判された坂上与一郎のまな娘鈴江であったから
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