土手のおでん屋を詮議《せんぎ》すりゃ、もうしめたものだぞ。来い!」
 恐ろしいすばしっこさで、そのまま右門が表へ駆けだしたものでしたから、まだはっきりとわからないがだいたいめぼしのついた伝六も、しりをからげてあとを追いました。まことにもうひとっ飛びで、評判のおでん屋を土手先で見つけたのはそれからまもなくでした。
 のれんをくぐってはいってみると、なるほど、評判どおりの美人です。年のころはまず二九あたり、まゆのにおやかえくぼのあいきょう、見ただけでぞくぞくと寒けだつほどの美人でした。しかし、ちらりと目を胸もとへさげたとき――あっ! おもわず右門は声をたてんばかりでした。乳が、その割合にしてはいかにも乳のふくらみが小さいではありませんか! はてなと思って、さらに目を付き添いのおやじに移していくと、もう一つ不審があった。その指先にはりっぱな竹刀《しない》だこが、少なくも剣道の一手二手は使いうることを物語る証左の竹刀だこが、歴然としてあったのです。右門はおどりたつ心を押えながら、そしらぬ顔で命じました。
「琉球の芋焼酎とかをもらうかな」
 と――偶然がそこにもう一つの幸運を右門にもたらしました
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