をくぐりました。しかし、右門はまさかにこの仲間ではあるまいと思っていたのに、これは意外、つかつかと二文払って同じく中へはいりましたので、伝六はいよいよ鼻をつままれてしまいました。
けれども、右門は伝六のおどろいていることなぞにはいっこうむとんちゃくで、ちょうど幕が上がっていたものでしたから、引き入れられるように舞台へ目をすえだしました。見ると、まことや口上言いの能書きどおりなのです。黒い玉に乗って柳の影から、まるで足のない幽霊のごとく、ふうわり舞台へ現われると、太夫はいかにも怪しい唐人語を使って、不思議な踊りを玉の上で巧みに踊りました。と、同時でした。右門は突然しかるように、伝六へいいました。
「きさま、今の唐人語に聞き覚えないか」
「え? なんです。なんです。唐人語たあなんですか?」
「どこかであれに似た節のことばを聞いたことはねえかといってるんだよ」
伝六が懸命に考えていましたが、はたとひざを打つようにいいました。
「あっ! そういえば、こないだお花見の無礼講に、清正と妓生《キーサン》が、たしかにあんなふうな節を出しましたね」
「それがわかりゃ、きさまもおおできだ。このうえは、
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