蛮渡来の女玉乗り――と書かれた絵看板の前だったのです。のみならず、かれはその前へたたずむと、しきりに客引きの口上に耳を傾けました。
――客引きはわめくように口上を述べました。
「さあさ出ました出ました。珍しい玉乗り。ただの玉乗りとはわけが違う。七段返しに宙乗り踊り、太夫《たゆう》は美人で年が若うて、いずれも南蛮渡来の珍しい玉乗り。さあさ、いらっしゃい、いらっしゃい。お代はただの二文――」
言い終わったとき、右門はつかつかと口上屋のかたわらに近づいて、無遠慮に尋ねました。
「座頭《ざがしら》太夫はもと船頭で、唐《から》の国へ漂流いたし、その節この玉乗りを習い覚えて帰ったとかいううわさじゃが、まさかにうそではあるまいな」
「そこです、そこです。そういうだんながたがいらっしゃらないと、あっしたちもせっかくの口上に張り合いがないというものですよ。評判にうそ偽りのないのがこの座の身上。それが証拠に、太夫が唐人語を使って踊りを踊りますから、だまされたと思って、二文すててごらんなさいよ」
得意になって口上言いが能書きを並べだしたものでしたから、それにつられて、あたりの者がどやどやと六、七人木戸
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