のみならず、供先は息づえをあげると同時に、心得たもののごとく、ひたひたと先を急ぎだしました。柳原なら大川べりを左へ曲がるのが順序ですが、まっすぐにそれを通り越して、どうやら行く先は浅草目がけているらしく思われましたものでしたから、少し寸法の違うどころか、伝六はとうとうめんくらって、うしろの駕籠から悲鳴をあげました。
「まさかに、柳原と観音さまとおまちがいなすっていらっしゃるんじゃありますまいね」
 けれども、右門はおちつきはらったものでした。駕寵をおりるや否や、さっさと御堂裏《みどううら》のほうへ歩きだしたのです。いうまでもなく、その御堂裏は浅草の中心で、軒を並べているものはことごとく見せ物小屋ばかり――福助小僧の見せ物があるかと思うと、玉ころがしにそら吹けやれ吹けの吹き矢があって、秩父《ちちぶ》の大蛇《だいじゃ》に八幡《やはた》手品師、軽わざ乗りの看板があるかと思えば、その隣にはさるしばいの小屋が軒をつらねているといったぐあいでした。
 それらの中を、むっつり右門は依然むっつりと押し黙って、かき分けるようにやって行きましたが、と、立ち止まった見せ物小屋は、なんともかとも意外の意外、南
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