理屋ながらいっばしの亭主でありました。
「これはこれは、八丁堀のだんながたでいらっしゃいますか」
一瞬にして目がきいたものか、もみ手をしいしい板場から顔を出して、すぐと奥まった一室へ茶タバコ盆とともに案内したので、右門はただちに町人の三百両事件を切り出しました。むろん、事の当然な結果として小料理屋それ自体に三分の疑いがかかっていたので、伝六にはその間に屋作りをぬけめなく調べさせ、右門みずからは亭主の挙動にじゅうぶんの注意を放ちました。けれども、亭主は事件は知ってはいたが、その下手人についてはさらに心当たりがないというのです。町人が上がったころにどんなお客が二階へ上がっていたかも記憶がないというので、伝六の探索を延ばしたほうも同様に手がかりは皆無でした。わずかに残された探索として希望をつなぎうるものは、事件の前後に受け持ちとして出ていった小婢《こおんな》があるばかり――。
で、さっそくにその婢を呼んで、むっつり屋の右門がきわめていろけのないことばつきで、当時のもようをきき正しました。と――手がかりらしいものがわずかに一つあがったのです。それは一個の駒《こま》でありました。馬の駒ではな
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