しの犯人をひっくくろうと、お組屋敷は上を下への混雑でありましたが、しかし右門は目をくれようともしませんでした。二つの事件に必ず連絡があるとにらみましたので、あるとすれば、犯罪のやり口からいって一筋なわではいかない犯人に相違あるまいとめぼしをつけたので、将を射んとする者ほまず馬を射よのたとえに従って、三百両事件を先にほじってみようと思いたちました。立てばいうまでもなくもうあだ名のむっつり右門です。
「急にきつねつきのような形相をなさって、どこへ行くんですか、だんな!」
おしゃべり屋の伝六があたふたとあとを追っかけながら、しつこく話しかけたのにことばもくれず、右門はさっきの町人がいった湯島の玉岸という小料理屋目がけて、さっさと歩みを運びました。
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行ってみると、なるほど家の構えはこぎたないが、この界隈《かいわい》の名物とみえて、店先はいっぱいのお客でありました。右門はべちゃくちゃとさえずっている岡っ引きの伝六をあとに従えて、ずいと中へはいっていきました。
古い物は付けにも目の高いものは、やり手ばばあに料理屋のあるじとうまいことをうがってありますが、玉岸のおやじも小料
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