《しも》どけでけぶっていた。
十時の開式までは、塾生たちはやはり自由に過ごすことになっていた。朝食をすますと、彼等《かれら》は日あたりのいい窓ぎわにかたまって雑談をしたり、事務室におしかけて来て新聞を読んだりしていた。
八時をすこしすぎたころに、けたたましく事務室の電話のベルが鳴った。次郎が出て見ると、田沼《たぬま》理事長からだった。
「朝倉先生は?」
「塾長室においでです。」
「じゃあ、そちらにつないでくれたまえ。」
次郎は、何か急用らしいが今ごろになって何事だろうと思いながら、線を塾長室にきりかえた。
すると、まもなく、塾長室から朝倉先生の声がきれぎれにきこえて来た。
「はあ、なるほど。……それは、むろん、こばむわけにはいきますまい。……ええ、ええ、……承知いたしました。いたし方ないでしょう。……すると、こちらで予定していた来賓《らいひん》祝辞は、……ああ、そうですか。では、時間の都合を見まして適当にやることにいたしましょう。……え? ええ。やはりずいぶん気にやんでいるようです。私からは何も話してはいませんけれど、あれっきり荒田《あらた》さんの顔が見えないので、何かあると思
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