と委《くわ》しく話すといわれましたな。」
「ええ、申しました。」
「わしは、それを傍聴《ぼうちょう》さしてもらえば結構です。」
「なるほど、よくわかりました。どうか、ご随意《ずいい》になすっていただきます。」
 来賓たちは、あとに気を残しながら、間もなく引きあげた。田沼《たぬま》理事裏もすぐあとを追って引きあげたが、立ちがけに荒田老の肩《かた》を軽くたたきながら、冗談《じょうだん》まじりに言った。
「どうぞごゆっくり、私はお先に失礼します。あとは塾長まかせですが、塾長に何かまちがったことがありましたら、お叱《しか》りは私がうけますから、よろしく願いますよ。」
 荒田老は、それに対してはうんともすんとも答えず、腕を組んで木像のようにすわっているきりだった。
 そのあと、玄関で、塾長と理事長との間に小声でつぎのような問答がかわされたのを、次郎はきいた。
「行事はいつもの通りにすすめていくつもりです。」
「むろん。」
「さけ得られる摩擦《まさつ》はなるだけさけたいと思っていますが……。」
「そう。それはできるだけ。……しかし、それも塾の方針があいまいにならない程度でないと……」
「それは、い
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