の緊張した視線の交錯《こうさく》の中でこたえた。わざとらしくない、おちついた答えだった。
「実はね、塾長さん――」
と、荒田老はいくらか威圧《いあつ》するような声で、
「式場であんたのいわれることは、毎度きいていて、大よそは、わかったつもりです。しかし、ちょっと腑《ふ》におちないところがありましてな。――これは、理事長のいわれることについても同じじゃが。――で、もう少し立ち入っておききしたいと思っているんです。」
「いや、それはどうも。……なにぶん式場ではじっくり話すというわけにはまいりませんので。で、どういう点にご不審《ふしん》がおありでしょうか。」
立ちかけていた来賓たちも、そのまま棒立ちになって、荒田老の言葉を待っていた。すると荒田老はどなるように言った。
「わしとあんたの間で問答しても、何の役にもたたん。」
「は?」
と、朝倉先生はけげんそうな顔をしている。
「あんたがこれから塾生に何を言われるか、それがききたいのです。」
「なるほど、ごもっともです。」
朝倉先生は微笑《びしょう》してうなずいた。
「今日、式場で、あんたは午後の懇談会《こんだいかい》であんたの考えをもっ
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