てむせぶように言った。
「ぼく、助かりました。……これから大河さんに、もっといろいろきいてもらいたいことがあるんです。旅行に出たら、すっかり話します。」
 この時、塾長室の窓から、二人の様子をじっと見まもっていた四つの眼があった。それはむろん朝倉先生夫妻の眼だった。次郎も大河も、しかし、それにはまるで気がついていなかった。
 その後、旅行までの二日間は、べつに変わったこともなくすぎた。入塾志願取り消しの電報は、その間にもさらに幾通《いくつう》かとどいたが、次郎はもうそれを大して気にはしなかった。むしろそれよりも、旅行前夜まで取り消しの通知が来なかった幾人かの志願者に対して、こちらから、事情により当分休塾するという意味の、きわめて事務的な通知を発送しなければならなくなったことが、かれの気持ちを割りきれないものにしていたのだった。
 いよいよ旅行の日が来た。全員――といっても朝倉夫人だけはいつも留守番役だった――が門を出たのは、まだ夜が明けはなれないころだった。旅行中のいろんな役割は万遍《まんべん》なく塾生全部にふりわけられていた。出発から帰塾まで、全く役割なしですませる塾生は一人もなかっ
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