ってまだ三年とはたたない本館や、空林庵《くうりんあん》を、無念そうに見まわしていた。かれの胸には、幼いころ、自分の通《かよ》っていた村の小学校が新築され、それがかれと乳母《うば》のお浜《はま》を引きはなす原因になり、お浜と二人で最後に旧校舎の屋根を見あげたときの、あの言いようのない寂《さび》しい気持ちが、しみじみとわいていたのだった。かれは何か言いわけでもするように言った。
「しかし、ぼくらがついて歩けば、それだけ費用もかかりますし、勝手には決められないでしょう。」
「それはだいじょうぶです。小母さんのお話では、その費用なら、田沼先生のお力でいくらでも出るところがあるんだそうです。」
 次郎は、このことについて自分とはまだ何一つ話しあっていない朝倉夫人が、すでにそんなことまで大河に話しているのを知って、おどろいた。そのおどろきにはかすかに暗い影《かげ》がさしていた。塾の建物を見まわして幼いころの寂しかった気持をそそられていたかれは、同時に、そのころ覚えた不快な嫉妬心《しっとしん》をも呼びさまされていたのである。それはかれがとうの昔《むかし》にのりこえていたはずの人間としての弱点であった
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