いという好奇心《こうきしん》もかなり強く手伝っていたらしかった。
 次郎は、まだやはり道江の手紙のことが気になって、外出する気にはむろんなれず、かといって落ちついて読書もできず、例によって日あたりのいい広間の窓によりかかって、ひとりで思い悩《なや》んでいた。床《とこ》の間《ま》の掛軸《かけじく》に筆太《ふでぶと》に書かれた「平常心」の三字も、今のかれにとっては、あまりにもへだたりのある心の消息でしかなかったのである。
 塾生たちの出はらった本館の静けさは、気味わるいほどだった。そとには風もなかった。霜柱《しもばしら》のくずれる音さえきこえそうな気がした。次郎は、しかし、あたりが静かであればあるほど、気がいらだつのだった。
 ふと、しずかな空気をやぶって、玄関《げんかん》のほうに人の足音がした。つづいて、
「次郎さん、いらっしゃる?」
 と朝倉夫人の声がきこえ、事務室と次郎の室との間の引き戸をあける音がした。
 次郎があわてて広間にとび出すと、朝倉夫人は、もう廊下《ろうか》をこちらに歩いて来ながら、
「何かお仕事?」
「いいえ。」
 次郎はどぎまぎして答えた。夫人は微笑《びしょう》した眼
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