と馬車|馬《うま》のようになるんで困る。」
「でも、あんなに純な気持ちになれるのは尊いと思いますわ。」
「尊いかもしれんが、そのために、あんなにふさぐようでは、感心ばかりもしておれんね。」
「何とか慰《なぐさ》めてあげたほうがいいじゃありません?」
「うむ。そうも考えるが、ほっておくのもわるくはないだろう。いざとなったら、ふさいでばかりもおれないだろうし、自分で何とか始末するよ。」
「あたし、それじゃあ何だか残酷《ざんこく》なような気がしますけれど。」
「そうかね。しかし、そんな残酷さは、友愛塾では毎日のことじゃないかね。」
「そうおっしゃられると、そうですけれど。」
 二人の話は、いつもそんなふうで終わりになるのだった。二人とも、次郎のふさぎの虫の原因の大半が道江《みちえ》の問題にあるということには、まるで気がついていなかったし、まして、それが塾の運命にづいての不安感とからみあって、かれの人間としての自信をゆすぶり、さらにそれが大河無門という人物の存在によって拍車《はくしゃ》をかけられているという複雑な事情など、とうてい思いも及《およ》ばなかったことなのである。
 道江の問題といえば
前へ 次へ
全436ページ中343ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング