しておいてやろうかと思っただけなんです。みんなは、今日はほこりをかぶって来るでしょうし、それに、今夜はお国|自慢《じまん》の会をやって遊ぶ予定でしょう。風呂でもあびて、さっぱりしたほうがいいんじゃありませんか。」
大河無門は、そう言ってにっと笑ったが、すぐ、
「おじゃましました。」
と、ぴょこりと頭をさげた。そしてのっそり立ちあがると、そのまま室を出て行ってしまった。
次郎は、ぽかんとして、そのすんぐりしたうしろ姿を見おくっていたが、戸がしまったあとまで、大河のにっと笑った顔が、あざやかに眼に残っていた。その笑顔《えがお》は、こないだの板木《ばんぎ》一件以来、これで二度目だったのである。
かれは、いつまでもその笑顔にとらわれていた。まんまるな顔の輪郭《りんかく》、近眼鏡のおくにぎらりと光る眼、真赤な厚い唇《くちびる》、剃《そ》りあとの真《ま》っ青《さお》な頬《ほお》の肉、そうしたものが、組みあわさってできあがる大河の笑顔には、一種異様な表情があった。それは、決して冷たい皮肉だとは受け取れなかった。かといって、単なるあたたかい親愛感の表現と受け取るには、その奥《おく》に何かきびし
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