静寂にかえった。
次郎は深いため息に似た息を一つつくと、カーテンを思いきり広くあけ、机の上の電気スタンドを消した。そして、外の光でもう一度「歎異抄」のページに眼をこらした。
机の上の小さな本立てには、仏教・儒教《じゅきょう》・キリスト教の経典類や、哲人《てつじん》の語録といった種類のものが十冊あまりと、日記帳が一冊、ノートが二三冊たててあるきりである。次郎は、どういう考えからか、一月《ひとつき》ばかりまえに、自分の蔵書《ぞうしょ》の中から、それだけの本を選んで座右におき、ほかはみんな押《お》し入れにしまいこんでしまったのであるが、このごろでは、そのわずかな本のいずれにもあまり親しまないで、ほとんど「歎異抄」ばかりをくり返し読んでいるのである。
*
次郎が郷里の中学校を追われてから、もうかれこれ三年半になる。父の俊亮《しゅんすけ》が退学の事情をくわしく書いて朝倉先生に出してくれた手紙の返事が来ると、かれはすぐ上京して先生の大久保の仮寓《かぐう》に身をよせた。先生の上京からかれの上京までに二十日とは日がたっていなかったので、かれが着京したころには、先生自身もまだ十
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