て、われ知らず眼をひらき、塾生たちの中に大河の顔をさがした。かれは塾生たちの静坐の姿勢を直したあと、朝倉先生の横に斜《なな》め向《む》きにすわっていたので、よく全体が見渡《みわた》せたのである。
 大河は第五室の列の一番うしろにすわっていた。しかし、ただ静かに瞑目《めいもく》しているだけで、その顔からは、かれの気持ちがどう動いているかは、すこしもうかがえなかった。
 朝倉先生は、それっきり口をつぐんでいる。次郎はいよいよ不安だった。もし先生の話がそれで終わったとすると、大河に対してはむろんのこと、あとでほんとうのことがわかった場合、他の塾生たちに対しても、このままでは決していい結果をもたらさないだろう。
 かれは視線を転じて、そっと先生の顔をのぞいてみた。すると、ふしぎなことには、先生のいつもの端然《たんぜん》たる静坐の姿勢がいくらかくずれている。顔をすこし伏《ふ》せ、その眉《まゆ》の間には深いしわさえ見えるのである。次郎は、先生が気分でも悪くなったのではないか、と思った。
 先生は、しかし、まもなく顔をまっすぐにした。そして、これまでの激しい調子とはうって代わった、沈《しず》んだ調子
前へ 次へ
全436ページ中189ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング